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大阪高等裁判所 昭和56年(ラ)208号 決定

抗告人 井上安人

右代理人弁護士 香川文雄

同 溜池英夫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は「原決定を取消し、相当な裁判を求める」というのであり、その理由は別紙記載のとおりである。

よって検討するに、本件記録及び大阪地方裁判所昭和五四年(ケ)第一〇二号不動産競売事件記録によれば、債務者たる抗告人に対する本件競売手続開始決定正本の送達は、河内郵便局配達員峯健夫が昭和五四年四月一八日に抗告人方において抗告人不在のため同居者井上美鈴に交付して送達したものであり、右美鈴は郵便送達報告書の受領者欄に受領者として署名押印したものであるところ、同人は抗告人の長女であって、昭和四三年七月一一日に出生した者であり、右受領当時満一〇才にして、小学校五年に在学中であり、抗告人方で抗告人と共同生活をしていたことを認め得る。右送達は民事訴訟法一七一条一項所定のいわゆる補充送達であるところ、同条項にいう「事理ヲ弁識スルニ足ルヘキ知能ヲ具フル者」とは、書類送達の一般的意義を理解し得て、受領書類を送達名宛人に交付し得べき能力を有する者であれば足り、それ以上に司法制度や訴訟行為の効力まで理解している者である必要はないというべきであるから、右認定の事実関係からすれば、右美鈴は右受領当時右条項所定の受領能力を有していたと認めるのが相当である。

また、右各記録によれば、本件競売における最低入札価額五三四万円は、昭和五四年八月一〇日になされた本件競売物件の時価に関する鑑定人荒木久三の鑑定の結果に従って定められたものであり、本件入札期日は昭和五六年四月一三日であって、その間一年一〇か月許り経過していることを認め得るが、現在の経済事情下では、右程度の時日の経過によっては、未だ最低入札価額が再評価を必要とするほど不当に低廉になったとすることはできない。

更に右各記録によれば、本件においては、抗告人が偽造書類であると主張する抗告人作成名義の昭和四八年七月一一日付借用証書以外にも、抗告人作成名義の昭和四七年五月二三日付根抵当権設定契約証書(債権極度額一〇〇万円)、昭和四八年七月一一日付根抵当権変更契約証書(債権極度額三五〇万円)が存在し、本件物件につき債権者松井善司のため、昭和四七年五月二六日受付の根抵当権設定登記、停止条件付所有権移転仮登記、停止条件付賃借権設定仮登記、及び昭和四八年七月一四日受付の根抵当権変更登記が各経由されていること、本件物件につき昭和五〇年一月四日受付で抗告人から金茂夫に対する所有権移転登記が経由されていること、及び右松井が昭和五三年一一月中に書面を以て抗告人に対し、本件物件上の根抵当権によって担保されている債務元本三五〇万円に関する元利合計金の支払を請求し、その支払がないときは、本件物件につき競売の申立をなす旨を通告したことを認め得る。右各事実を総合すると、本件根抵当権の被担保債権は現に存在すると認めざるを得ない。

そうすると、右競売事件記録上他に本件競落許可決定を取消すべき事由も認め得ないから、本件抗告は失当として、これを棄却し、抗告費用は抗告人の負担とした上、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 坂上弘 大須賀欣一)

〈以下省略〉

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